第28回の配信では昨今の業界の状況を鑑みながら、翻訳品質の管理、よりよい品質の定義、特によりよい品質を実現するためのプロセスについて議論しました。
スピーカーを務めてくださったのは、大手翻訳会社にて営業、企画、特許発明、代表取締役、一部上場企業子会社のCEOをご経験され、現在も翻訳業界で多様にご活躍されている日下部優さんです。日下部さんは翻訳カフェ初回からご参加くださっています。
トークでは、まず「翻訳とは何か」について文献を交えて語っていただき、その後に機械翻訳の自動評価指標として頻繁に持ち出されるBLEUスコアについてご説明いただきました。BLEUでは見本とする「参照訳」があり、その参照訳と、ある訳文がどれほど類似しているかを数値で表します。
数値によって、例えば「ほとんど役に立たない」「理解できる、適度な品質の翻訳」などとレベルが設けられています。
日下部さんは、BLEUに鑑みて独自の新しい評価軸「LED(Language Evaluation Direct)」を考えておられます。言語がどれだけ人の魂(心)に響くかを判断する際に目安となるスコアのようです。
BLEUの最低レベルは「ほとんど役に立たない」ですが、LEDの最低レベルは「ほとんど魂に響かない状態で、意味は理解できる、または理解できたつもりになれる」とあります。
つまり、日下部さんが提案されるLEDは、BLEUで測れる品質30~40程度(理解できる、適度な品質)はかなえた上で、その先にもっともっと人の心に響く翻訳を生み出していくための評価軸になります。
もっと詳しく知りたい方はぜひ会員登録の上アーカイブをご視聴くださいね。
原文の意味を遷移させ、最低限の等価を保てたとして、そこからどうやって人の心に届く言葉をつむいでいけるのか。
結局その先、究極は個人の好みになってしまうのでしょうが、完全に個人の好みに寄せていく少し手前を目指すことは可能なのではないかと、日下部さんは提案していらっしゃいました。
そこで、ディスカッションの時間には具体的に「英語ネイティブの魂に響く掃除機マニュアルの作成プロセス」について議論しました。
実務や研究の世界に身を置くみなさまから、貴重なご意見をたくさんいただきました。以下にご意見の例を記載します。
- 原文(日本語)も、訳文側の言語(英語)を理解できる人が書くと良い
- 日英両言語でテクニカルライティングができる人が翻訳をすると良い
- まず原文が「魂に響く」文章になっているのか
- 原文で訴えたいこと、伝えたいことを箇条書きにしておき、あとは翻訳者に任せる
- 単価は原文を作成した人と同等程度が良い
ご参加くださったみなさま、今回もすばらしいお考えを共有していただきありがとうございました。
最後に感想になりますが、私自身、BLEUで担保できる最低レベルの品質をクリアしたらあとは好みの問題だと割り切ってしまっていました。今回のディスカッションを通して、完全にパーソナライズする少し手前、一人でも多くの人に響く言葉はあるのかもしれないと思いなおしました。そのプロセスを模索していくのはすごく楽しいですね。
来週はここ2週間の配信を踏まえて浮かび上がった話題について議論し、翻訳カフェとしてアウトプットすることを考える回になります。
もちろん、過去2週間ご参加いただけていない方も大歓迎です。
翻訳カフェメンバーは、より多くの方と考えを交換して議論できることを楽しみにしております。
ご興味おありの方はぜひ、会員登録の上配信にご参加ください。
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来週もどうぞよろしくお願いいたします。
文責:渡邉里菜