第30回の配信では、通訳・翻訳の訳出プロセス、順送りについて認知言語学の視点から考える機会をいただきました。ご登壇いただいたのは通訳・翻訳者、また研究者でもあられる北村富弘さんです。
トークのテーマは以下です。
英日順送り訳の日本語らしさを認知言語学で分析してみる
―動詞・目的語の順送り訳を中心に
「順送り訳」とは?
北村さんのトークでは、まず順送りの例を示してくださいました。
(※本記事で提示する例文は、北村さんのスライドより引用させていただいております。)
原文:①The EU leaders ②meet ③tomorrow.
訳文:①EU首脳 ②会議は ③明日 です。
原文で出てくる情報の順番が訳文にも反映されていることが分かります。これがいわゆる「順送り訳」です。
北村さんいわく、訳文の「日本語らしさ」を狙うからこそ順送り訳が有用であるとのことです。
書かれた順序に従って訳してくことで、①原文の感覚や論理を生かすことができる ②日本語の文の組み立てがうまくいく というのが熟練翻訳者の言説のようです。
次に、順送り訳について考える上で、英語と日本語の違いについてお話ししてくださいました。
英語と日本語の違い ①主題と主語
日本語には、主題(topic)という文法成分があります。
小学校のときには助詞の「は」も「が」も主語!と習うのですが、実際は「は」は主題(topic)、「が」は主語(subject)を示します。
例えば日本語ではしばしば「象は鼻が長い」というような構造がとられます。英語で同じ意味の文を作ろうとすると、よくある文法パターンとしては”Elephants have long trunks.”です。
これらの文の文法成分を見てみると、以下のようになります。
日本語 | 英語 |
象は鼻が長い | Elephants have long trunks. |
主題、主語、述語 | 主語、動詞、目的語 |
日本語では「象は」と主題(topic)を示した後に、主語と述語が述べられます。それに対し英語では、まず主語を示した後に動詞、目的語という順番になります。
英語には主題という文法成分がなく、英語は主語優勢言語、日本語は主題優勢言語と言われるようです。
以上が英語と日本語の違い、1点目でした。
ところどころかいつまんで書いていますが、もっと理解を深めたい方はぜひアーカイブ動画をご視聴いただければと思います…。
英語と日本語の違い ②他動詞構造と参照点構造
また、英語は動作主志向の言語と言われます。①「誰が」 ②何に(誰に)何をする…という構造です。
それに対し日本語は前置きから入り、本題に入る、参照点構造を持つと言われます。わかりやすい物ごとを手掛かりとして(先に述べておいて)本題を語る構造です。
I want an apple.
(自然な日本語訳)…僕はリンゴが欲しい
(原文の文法成分を反映した訳)…僕がリンゴを欲する
英語の文法をそのまま日本語に反映すれば、「僕が(動作主)リンゴを欲する」となるのですが、自然な日本語としては「僕は(主題)リンゴが欲しい」となりますね。
情報が出てくる順番は同じですが、文法の成分は違います。
I want an apple. のような、英語ではよくある他動詞構造の文を訳す場合でも、先に主題を述べて参照点構造をもつことで日本語らしさを保てるといったお話でした。
山田先生いわく、この考え方や分析は、翻訳に携わる人が常々考える「いい翻訳とは何か」という問いに一部答えを与えてくれるものでもあります。
北村さんのトークではもっとたくさんの例を用いて詳しく説明していただいているので、ぜひアーカイブ動画をご視聴ください!
来週は…
来週も、今回に引き続き「順送り」という視点から山田先生に語っていただきます。
かなりアカデミックなテーマに入ってきておりますので、分からないところやご意見など、随時投げかけていただければ幸いです。
配信を見ていただいたり、本記事を読んでいただいて疑問点などあった場合にもぜひ来週ご参加の上ご質問いただければと思います!
リアルタイムでご参加いただくと山田先生や北村さんに直接質問できます☺
\お待ちしております!/
参考記事
実は翻訳カフェ運営を担当している岡村は修士課程で順送りについて研究していました。
それに関連して記事を書いたことがありますので、参考として今回の配信の復習がてら読んでみてください☺
「色々聞いてみてもう一度、順送り訳とは何かさらっと復習したい…」「結局順送り訳って何ぞや…」という方向けの記事↓
「実際にプロの翻訳者が行った順送り訳やその効果を見てみたい…」という方向けの記事↓
(文責:渡邉)