第32回の配信では、通訳翻訳研究の分野で順送りを専門に研究なさっている石塚浩之さんにご登壇いただきました。過去2週間にわたり順送りという観点から日本語と英語の違いを考え、言語の情報構造を考え、そして迎えた今回は通訳者(翻訳者)の思考について考えました。

トークではまず、実際の通訳を文字に起こしたデータで順送り訳の例を示していただきました。これまで数週間で順送りの訳例をたくさん見せてもらいましたが、通訳の現場で実際順送りが使用されている例を見ると、順送り訳がどういったものかより深く理解できた気がしました。

石塚先生のトークで最も強調されていたのは通訳者(翻訳者)の思考です。

もちろん原文の統語構造をそのまま訳文に反映できるわけはありません。「順送り訳」といってもはっきりとした定義はなく、個人の見解によっても基準は変わってくるはずです。

そこで重要になってくるのが、翻訳単位(Translation Unit /TU)という捉え方です。石塚先生によると、翻訳単位は原文や訳文の言語情報ではなく、人間の頭の中で構築された概念の単位によって区切られるということです。

通訳者は一連の情報を頭のなかで概念ごとに区切り(=翻訳単位)、その単位ごとに目標言語で訳出しているのです。概念を区切る単位はそれぞれの通訳者で変わってしまうため、訳出にも個人差が表れて然るべきだというお話でした。

また、このお話の後も具体例を用いて通訳者の頭の中に着目した分析をご紹介いただきました。個人差についても思考の観点から言及いただきました。

分析により、語順や着目している要素に個人差はあるものの、語ろうとしていた大きな概念はほぼ同じだったということが分かりました。目に見える(聞こえる)言語情報だけでなく、ふだんは見えない思考を含めてコミュニケーションは成り立っているということが示されている、と山田先生からもまとめていただきました。

順送り訳は単なる訳出方法の一つではなく、人間がどのように物事を解釈し伝えているのかという大きな問題とも関連するトピックだということです。

他にも1時間ではとても足りないほどの、知的で興味をそそられるお話をうかがい、たくさん議論も繰り広げられました。もっと理解を深めたい方はぜひアーカイブをご視聴ください。

文献も再掲させていただきます。

来週も皆さまのご参加をお待ちしております!

(文責:渡邉里菜)