今回は、「機械翻訳を使えば、大学入試の英語試験(長文読解問題)をパスできるか?」を検証します。弊研究室の大学院生(西原梨沙さん)の研究結果をベースに解説を加えます。
 検証では、某私立大学の英語の入試問題を使い、機械翻訳のDeepLを使って、長文読解を解けるのかを検証しました。検証方法の詳細として、新井紀子氏のチームが開発した「RST(リーディングスキルテスト)」を援用し「理解」の詳細を分析しました。従来の翻訳品質評価指標(MQMベースのMNH-TT)を使ってエラーアノテーションも行いました。
 結果は、機械翻訳を使えば、大学入試の英語試験(長文読解問題)はパスできる。理論的には、ほぼ全問正解できるだけの情報をDeepLの日本訳は提供してくれる、ことがわかりました。
 他方で、従来の翻訳エラーは、100箇所以上ありました。しかし、長文読解の問題を解く妨げにはなりませんでした。
 とはいっても、これは機械翻訳の訳出が完璧であることを意味しません。本検証で判明したのは、機械翻訳は、「係り受け解析」「照応解析」を苦手とし(つまり、RSTでも正答するのが難しい)という問題を抱えていましたが、本検証で使用した某私立大学の大学入試の英語の設問のほとんどが「同義文判定」であったため、機械翻訳が苦手とする、「係り受け解析」「照応解析」を回避することができた、というだけのことでした。つまり、結論としては、「機械翻訳を使えば、大学入試の英語の長文読解くらいであれば解けてしまう」ということに過ぎないのです。この結果は、これからの、日本の英語教育のあり方をも、考えさせられるものでした。